木の家ヨガ 宝塚市仁川

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雑感・学生時代のこと

*[回想]

趣味はクラシックピアノという高校生だった私が
大学では探検部なんてサークルに入ったので、周囲の人は驚いたけれど、
入った理由はひとつ、見て回ったなかで一番雰囲気が知的だったから。
その空気を作っていたのは数人の先輩だったが、なかでも特に私が気になったのは女性のSさんだった。


たくさんの仲間が長期休暇に外国へひとり旅をした。
インド、ニュージーランド、カナダ、行き先と動機は皆違ったけれど、
探検部だけにそれぞれ、観光目的の旅行ではなく、
自分にとって未知のテーマを追求する旅を計画して、語り合っていた。

2回生の春休みにフランスへ行って美術館を巡ると決めた私を
「T(私の旧姓)はおフランスなんや」と冷やかすSさんに
「ヨーロッパのものが一番成熟してると思うんです」と答えると、
真剣な表情に変わって「へぇ・・Tはどうしてそんな風に思うようになったの」と尋ねるので
正直に、フランス哲学の学者である父の影響が大きいんです、と答えると
「そうなんや。いいねぇ、Tは。私はアジアにまず目がいくのが当たり前やと思ってるけど」


このときのSさんの、自信に満ちていて、未熟なお嬢さんを貶すような言い方で、
私は考え込んでしまうことになった。
その春パリに2週間滞在して時間の許す限り美術館を見て回ったのは手応えのある経験ではあったけれど、
何か自分がいるべき場所はそこではないような気分が晴れなかった。


Sさんはその後、民族音楽についての論文を書いて高く評価されたり、
台湾の映画祭運営に関わったりしてずっと私の視野の先にい続けた。
今は台湾映画の研究者として某大学に務めていらっしゃる。


その頃のことを、娘と過ごしピアノを弾き始めた日々のなかで思い出した。
ピアノを弾くことは自分にとってホームであり戻ってきた場所だ。
やっぱりこれを続けていかないと、と思うと同時に、少しアンニュイになりもする時間。
音楽のなかに旅をするようでもあり、ピアノの前からほかには動くことのできない時間。
Sさんにとって今の映画研究の仕事は、旅をして辿り着いた、ホームではない場所なんだろうか。


今、ピアノの前と実家の書庫以外に旅をするべき場所のない私は、
いつかまたSさんと会って話がしたいな、と思っている。